1)日本の中央構造線
日本列島は、地質学的には棚倉構造線(Tanakura Tectonic Line)を境にして東北日本 (Northeast Japan)と西南日本(Southwest Japan)に二分されます。西南日本はさらに日本海側の内帯(Inner Zone)と太平洋側の外帯(Outer Zone)に二分されますが、その境界をなす断層が中央構造線(Median Tectonic Line;MTL)です。中央構造線の存在は、19世紀末に、初代の東京帝國大学地質学教室教授であったナウマン博士(E.Naumann)によって明らかにされました。
 中央構造線は九州東部からほぼ東西に四国の佐田岬半島、石鎚山麓、吉野川流域を抜け、紀伊水道を越えて近畿では紀ノ川から紀伊半島を横断します。中部地方では渥美半島・豊川を通り、北北東に向きを変えて赤石山地西縁を通って諏訪湖付近で糸魚川−静岡構造線(Itoigawa-ShizuokaTectonic Line)によって切られています。諏訪湖以東では関東山地北部から関東平野の地下に連続すると考えられており、これらを含めると総延長1,000kmを越える大断層になります。
 中央構造線をはさんで内帯と外帯では、分布する岩石の種類が全く異なります。北側の内帯には、領家帯(りょうけたい・Ryoke Belt)とよばれる、圧力の割に高い温度で の変成作用(high-temperatre metamorphism)を受けた岩石が分布しています。一方、南側の外帯には、三波川帯(さんばがわたい・Sanbagawa Belt)とよばれる、温度の割に高い圧力での変成作用(high-pressure metamorphism)を受けた岩石が分布しています。形成条件、つまり形成された場所の異なるこれら二種の岩石が、中央構造線をはさんで接しているのです。
 中央構造線の原形は、今から約1億年前の中生代白亜紀(Mesozoic,Cretaceous)から形成されていたと考えられており、その後何回かの活動期を経て現在でもその運動は続いています。中央構造線の運動はかつては左横ずれ(断層をはさんで向かい側が相対 的に左側にずれる;left-lateral strike-slip)成分が卓越していましたが、最近200 万年ぐらいの間は右横ずれ(right-lateral strike-slip)の運動が主であるようで す。紀伊半島以西の長さ約400kmの部分は、ここ数万年の間に何回も活動した痕跡が 認められることから、将来も活動する可能性のある断層、すなわち活断層(Active Fault)だと認定されています。
 断層の活動とはすなわち地震です。徳島県の中央構造線は、最も最近では16世紀に活動したことがトレンチ調査の結果明らかになりました。政府の地震調査研究本部によれば、今後1,200年以内にM8.0ないしそれ以上の地震が発生し、6-7m程度の右横ずれが生じることが確実視されています。

■中央構造線と内帯・外帯の図(大鹿村中央構造線博物館へのリンク)

四国周辺地形図(MTL)

2)中央構造線沿いの河川
一般に、大きな断層沿いは断層の運動(faulting)によって岩石が破壊されているために侵食されやすく、谷や峠といった地形的弱所になります。断層は直線状をなしてい ますので、断層に沿って直線的な谷があったり、峠が直線的に連続していたりすることがよくあります。
 中央構造線もこの例にもれず、その沿線には直線状に流れる河川や峠の連続が随所に 見られます。最も顕著なのが四国の吉野川から紀伊水道を越えて紀伊半島の紀ノ川へ と続く直線的な谷地形で、その延長は200kmにも及び、ランドサットの画像でも明瞭に追跡することができます。三重県の櫛田川や愛知県の豊川なども中央構造線に沿ってできた河川です。これら中央構造線沿いの谷では、山の中に開けた数少ない平地として古くから農業が営まれてきました。まっすぐに続く川沿いの道は交通路として利用しやすく、交易が発達しました。戦国末期に甲斐(現在の山梨県)の武田信玄が遠江 (現在の静岡県)を侵攻したときの軍事路も、赤石山地西縁の中央構造線に沿った道でした。

吉野川流域地形図(MTL)

3)吉野川流域で見られる地質学現象
吉野川の流域では、領家帯の岩石の代わりに同じく内帯の構成要素である和泉層群 (Izumi Group)の地層が分布しています。ここでの中央構造線は内帯の和泉層群と外帯の三波川帯の境界断層であり、大部分で吉野川の北側、阿讃山地の山麓を通ってい ます。和泉層群は中生代白亜紀後期(Late Cretaceous)の海で堆積した地層で、場所によってはアンモナイト(Ammonaits)の化石を算出します。三波川帯は白亜紀後期の 高圧型変成岩(high-pressure metamorphic rock; 後述)です。
 活断層としての中央構造線の運動の痕跡は、変動地形(tectonic landform)として随所にあらわれています。土成町や市場町、阿波池田町の市街地付近では断層によってできた凹地や崖が見られます。脇町付近では阿讃山麓を流れる川の流路が断層によってくいちがっているのが観察されます。美馬町池ノ浦では断層によって作られた池が見られます。これらの断層地形(fault topography)は、段丘や川の流れなど、ごく最近に形成されたと考えられる地形を切って形成されており、現在進行中のものである と言えます。
地形の研究結果から、活断層としての中央構造線の運動は垂直方向より水平方向のずれの成分のほうが著しく大きく、1,000年につき6-9mの速さ(平均速度)で右ずれの運動をおこしていることが明らかになりました。
 断層の露頭(地表にあらわれているところ; outcrop)では、断層運動によって岩石が破壊されて破砕帯(fracture zone)を形成している様子が観察されます。また、断層面にみられる擦り傷のようなものを条線(slickenline)といいますが、その方向はほぼ水平で、このことからも中央構造線が水平に大きくずれる断層であることがわかります。
中央構造線沿いにはたくさんの地すべり地形(landslide configuration)があり、中には断層を乗せたまま移動したと考えられる地すべり(landslide)もあります。そのため、活断層として地形から判別される中央構造線と、地表で見られる和泉層群と三波川帯の境界とが一致していない場所も見うけられますが、両者は地下では一致しているものと考えられます。



4)徳島名産の「青石」について
徳島県では「青石」と呼ばれる鮮やかな緑色の石が特産品の一つに数えられています。その色と模様の美しさから県内各地で庭石や石垣として利用されている「青石」 は、岩石学的には緑色片岩(greenschist)に分類され、中央構造線より南側の三波川帯に広く見られる岩石です。
 岩石は、通常より高い温度や圧力の下に置かれると、再結晶作用(recrystalization) によって各々の鉱物の結晶構造や化学組成が変化して別の鉱物ができ、結果として全く異なった岩石になることがあります。これを変成作用といい、変成作用の結果でき上がった岩石を変成岩(metamorphic rock)といいます。変成岩中に見られる鉱物の組み合わせは、変成を受ける前の岩石(原岩;original rock)と、変成作用の温度・圧力 条件によっていろいろ変化します。また、地下深くに押し込められたりそこから上昇したりする過程では、力のかかり具合に不均一が生じ、岩石が変形します。そのため、変成岩には薄く割れやすい片理(schistosity)を持っているものが多くあります。片理を持った変成岩のことを結晶片岩(schist)といいます。青石こと緑色片岩はそんな結晶片岩の一種です。
 玄武岩質(basaltic)の火山灰(tuff)や溶岩(lava)などが変成作用を受けると、緑泥石(chlorite)や緑簾石(epidote)、アクチノ閃石 (actinorite)といった緑色の鉱物が生成され、全体として緑色に見えることから名付けられました。
 変成作用の温度・圧力条件は、変成岩中の鉱物の組み合わせから解析することができます。それによると、三波川帯の緑色片岩は温度200-300℃・圧力1GPa(深さ30km)程度の条件で形成されたことがわかっています。これは普通の地下の地温勾配に比べて温度の割に圧力が高い条件です。この条件は、地球上では海水によって冷やされた海洋プレート(oceanic plate)が沈み込んで(subduct)いる海溝(trench)の地下深部に特徴的であることから、三波川帯の緑色片岩は、海洋プレートを構成していた玄武岩が海溝で沈み込む際に陸側のプレートに付け加えられ、そこで変成作用を経験してできたものだと考えられています。
 美しい青石ですが、片理にそってはがれやすい性質が禍いし、四国の三波川帯分布地域は日本有数の地すべり地帯でもあります。功罪相半ばすると言えるでしょう。

青石(緑色片岩)


■中央構造線や吉野川のことを体系的に扱ったwebサイトは意外に少ないのですが、
・長野県大鹿村中央構造線博物館のHP
 http://www.iidanet.or.jp/~kozosen/
は、中央構造線全般について知るのに役立ちます。

・政府の地震調査研究推進本部のHP
 http://www.jishin.go.jp/main/index.html
には、中央構造線の地震発生に関する長期評価が掲載されています。

■入門書として以下にあげる文献があります。
・松田時彦(1992):動く大地を読む(自然景観の読み方2).岩波書店.
・松田時彦(1995):活断層.岩波新書.
・杉村 新(1973):大地の動きをさぐる.岩波書店.
(活断層としての中央構造線については、これらの本に詳細が記されています)
・奥村 清・西村 宏・村田守・小澤大成(1998):徳島自然の歴史.コロナ社,242p.
(徳島県の地学について分かりやすく書かれてあります)
・平 朝彦(1990):日本列島の誕生.岩波新書,226p.
(日本列島形成史の中での中央構造線について書いてあります)

■上記以外に本文を書く上で参考にした文献です.
・阿子島功・須鎗和巳(1989):中央構造線吉野川地溝の形成過程.地球科学,43, p.428-442.
・地学団体研究会編(1996):新版地学事典.平凡社.
・狩野謙一・村田明弘(1998):構造地質学.朝倉書店,298p.
・水野清秀・岡田篤正・寒川 旭・清水文健(1993):中央構造線活断層系(四国地域)ストリップマップ.地質調査所.
・岡田篤正(1968):阿波池田付近の中央構造線の新期断層運動.第四紀研究,7, p.15-26.
・岡田篤正(1970):吉野川流域の中央構造線の断層変位地形と断層運動速度.地理学評論,43,p.1-21.
・阪口 豊・高橋 裕・大森博雄(1986):日本の川(日本の自然3).岩波書店,248p.
・杉山雄一(1992):西南日本前弧域及び瀬戸内区のネオテクトニクス.地質学論集, 40,p.219-233.
・平 朝彦(2001):地質学1 地球のダイナミックス.岩波書店,296p.
・徳島県地学のガイド編集委員会編(2001):徳島県 地学のガイド.コロナ社,208p.
・佃 栄吉(1992):西南日本弧のアクティブテクトニクス−前弧スリバーの西進運動にともなう変形像−.地質学論集,40,p.235-250.
・吉川虎雄・杉村 新・貝塚爽平・太田陽子・阪口 豊(1973):新編日本地形論.東京大学出版会.

written by 山口飛鳥(YAMAGUCHI Asuka)
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻
mail: asuka@rock.sannet.ne.jp



<流域概要トップに戻る>

(C) Copyright2004: International Ocean Institute JAPAN all rights reserved.